インプラント体は何でできている?素材の種類と特徴
インプラント体とは?
インプラント治療では、まず、歯の根っこの代わりとなる「インプラント体」を顎の骨に埋め込む外科手術を行います。
次に、人工の歯をインプラント体に連結するための部品である「アバットメント」をインプラント体に接続します。
最後に、「上部構造」と呼ばれる人工歯をアバットメントに接続します。
このように、「インプラント体」とは、歯の根っこの役割を果たす、インプラント治療用の部品です。
インプラント体の代表的な素材は、医療用として認可されたチタンです。
インプラント体は、歯槽骨に埋め込まれたのち、骨組織や軟組織と接合してはじめて機能するため、細胞が絡みやすいような加工が表面に施されています。
その表面加工には、各メーカーが粋を集めて開発した技術が使われています。
表面加工技術には、ブラスト処理、酸処理、酸化処理、機械研磨処理などがあります。
インプラント体の代表的な素材「チタン」
チタンは、チタン元素(Ti)から成る銀灰色の金属です。
チタンは、空気に触れるとすぐに酸化する性質があり、表面は酸化チタンの被膜に覆われているため、さびたり、溶け出したりすることがほとんどない非常に安定した物質です。
インプラント治療にチタンが使われるようになったきっかけは、1952年に、チタンがウサギの骨とくっつく現象が偶然発見されたことでした。
その後、動物実験を経て、1965年からチタンを材料に使った、人間へのインプラント治療が始まりました。
インプラント体の素材として使われるチタンには、純度99.8%以上の「純チタン」と、パラジウム・ニッケル・アルミニウムなどを混ぜた「チタン合金」があります。
チタンの特徴は?
「軽い」
チタンは大変軽い金属で、鉄の約3分の2、銅やニッケルの約2分の1の重さです。
そのため、インプラントの素材として使用しても、違和感が少なく、快適に使用できます。
「強い」
チタンは大変強度のある金属です。鉄の約2倍、アルミニウムの約3倍の強度があります。
治療後の食生活で、硬い食べ物を噛んでも、破損や変形のリスクが少ないと考えられます。
「さびにくい」
チタンは表面を酸化被膜で覆われているため、さびにくい素材です。
また、食べ物に含まれる酢やクエン酸などの酸にも強く、溶けにくい性質があります。
「骨と強固に結合する」
チタンには、骨と結合するという特徴があります(オッセオインテグレーション)。
チタンは、六万晶系という六角柱の形をした結晶構造ですが、骨や歯もまた、同じ六万晶系の結晶構造です。
分子の形が似ているため、チタンと骨は強固に結合するのではないかと考えられています。
「金属アレルギーになりにくい」
表面を酸化被膜で覆われたチタンは、金属イオンが溶け出すことは、ほぼないと考えられており、金属アレルギーになりにくい金属といわれています。
「酸化チタンの光触媒抗菌作用」
チタン表面の被膜である酸化チタンには、光を当てると抗菌作用を示す「光触媒抗菌作用」があります。
インプラント治療において、酸化チタンがブドウ球菌群に対して有効な殺菌効果を示したという研究結果が報告されています。
チタンは、インプラントの外科手術後の治癒期間に細菌が引き起こす感染症や、治療後の歯肉炎等を予防する効果が期待できる素材です。
純チタンの特徴は?
「純チタン」とは、チタンが99.8%以上のものをいいます。
純チタンは、純度の高い順に、グレードⅠ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳと格付けされています。
最も純度の高いグレードⅠでは強度が不十分なため、インプラント治療に使われるのは、グレードⅡ~Ⅳです。
「純チタン」の特徴は、上記の「チタンの特徴」に相当しますが、「チタン合金」に比べ、金属アレルギーが起こりにくいことも特徴のひとつです。
チタン合金の特徴は?メリットとデメリット
「チタン合金」とは、パラジウムやニッケル、アルミニウムなど、他の金属をチタンに混ぜたものです。
チタン合金のメリット
「純チタンより強度がある」
チタンは、他の金属を混ぜることで、素材としての強度が増すため、不純物の少ない純チタンよりもチタン合金の方が、強度があります。
「価格が安い」
一般的に、純チタンよりもチタン合金の方が安価です。
チタン合金のデメリット
「骨との結合力が弱い」
チタンの持つ骨と結合する性質は、他の金属を混ぜた分、その力は弱まり、生体との親和性も低くなります。
「金属アレルギーを起こしやすい」
金属アレルギーを起こしやすい金属として知られるパラジウムやニッケルなどを含むチタン合金は、金属アレルギーを起こしやすくなります。
ジルコニアの特徴とメリット・デメリット
ジルコニアは、ジルコニウム(元素記号;Zn)の酸化物で、ダイヤモンドよりも硬い高強度セラミックです。
ジルコニアのメリット
「骨と強固に結合する」
ジルコニアの骨との結合力は、チタンとほぼ同等です。
「歯茎との親和性が高い」
ジルコニアは、歯茎との親和性がチタン以上に高く、歯周ポケットができにくく、歯茎が下がってしまうことがほとんどありません。
「非常に強度がある」
ジルコニアは、人工ダイヤモンドともいわれるセラミックの一種で、非常に強度がある素材です。
「金属アレルギーの心配がない」
金属ではないので、金属アレルギーの心配がありません。
また、ジルコニアは、耐熱性・耐薬品性があり、非常に安定した物質であるため、変色しにくい素材です。
「歯垢がつきにくい」
歯垢がつきにくいため、歯周病になりにくく、接合する歯が虫歯になりにくいのが特徴です。
ジルコニアのデメリット
「硬すぎて、対合する歯を傷めることがある」
ジルコニアをインプラント体に使用した場合に、非常に硬い素材であるため、対合する歯に負担がかかり、傷めることがあります。
「費用が割高」
ジルコニアの価格は、チタンに比べ割高になります。
「ジルコニアを扱う歯科医院が少ない」
ジルコニアは、主流であるチタンに比べ、取り扱っている歯科医院が多くありません。
純チタン・チタン合金・ジルコニアの価格の違いは?
価格はメーカーや歯科医院によっても違いますが、一般的に、価格の高い順に、
(ジルコニア)>(純チタン)>(チタン合金)
となっています。
純チタン・チタン合金・ジルコニアの見た目の違いは?
ジルコニアは、骨や歯と同色の白色で、審美性に優れています。
チタンは銀灰色で、歯肉が痩せて根元が露出すると見た目はよくありません。
特にチタン合金では、溶け出した金属によって歯肉が黒ずむことがあります。
純チタン・チタン合金・ジルコニアでアレルギーを起こしやすいのは?
チタン合金が最も金属アレルギーのリスクが高く、次にリスクが高いのは、わずかに他の金属を含む純チタンです。
ジルコニアは金属ではないため、金属アレルギーの心配がありません。